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福岡高等裁判所 平成2年(ネ)221号 判決 1990年7月19日

福岡県大川市大字津一〇番地の四

控訴人

石川尚義

右訴訟代理人弁護士

永尾廣久

中野和信

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被控訴人

右代表者法務大臣

長谷川信

右指定代理人

松本清隆

坂井正生

樋口隆造

中野良樹

山崎元

右当事者間の損害賠償請求訴訟事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対して一六二四万六〇六八円及びこれに対する昭和六〇年三月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠の関係は、控訴人の主張の補充として左のとおり付加するほか、原判決事実摘示(但し、原判決三枚目表二行目の「次の述べるような」を「次に述べるような」と、同四枚目裏一一行目から同末行にかけての「いつでも異議申立てはできる。とりあえず払うように。』」を「『いつでも異議申立てはできる。とりあえず払うように。』」と、それぞれ訂正する。)のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の主張の補充)

1 藤吉係官は、昭和六〇年二月二二日当時、取消訴訟の出訴期間に制限があることを知らず、いつでも裁判できるとの誤った認識を有していた。したがって、同係官は、右同日、控訴人に対して、右認識に基づく誤った教示を断定的にしたと考えられ、同係官がその際曖昧な発言を行ったとは到底考えがたい。

2 藤吉係官の昭和六〇年三月二八日における誤った教示は、同年二月二二日における同様の教示とともに、控訴人に出訴期間の徒過という重大な結果をもたらした。同係官の右両日における誤った教示と控訴人の出訴期間の徒過との間には因果関係がある。

理由

一  当裁判所も、昭和六〇年二月二二日における藤吉係官の誤った教示に基づいて控訴人が別件租税訴訟の出訴期間を徒過したと認めるに足りる証拠はなく、また、同年三月二八日における同係官の教示は控訴人の右出訴期間の徒過とは何らの因果関係もないと認定判断するものであるが、その理由は、原判決理由説示(但し、原判決九枚目表八行目の「甲第一七号証」を「乙第一七号証」と訂正する。)と同一であるから、これを引用する。

二  控訴人は、藤吉係官の誤った教示により別件租税訴訟の出訴期間を徒過するに至った旨主張する。しかし、前出乙第一六号証及び原審証人藤吉廣美の証言並びに成立に争いのない乙第一一号証によると、藤吉係官は、昭和六〇年二月ないし三月当時、国税不服審判所長の裁決(本件裁決)があった場合における更正処分等の取消訴訟の出訴期間に関する制限(国税通則法一一四条、行政事件訴訟法一四条)について、断定的に応答できるほどの法的知識は持ち合わせていなかったことが認められ、したがって、同係官が控訴人の執拗な質問に対して、断定的な教示をしたとは容易に推認しがたいところ、更に、右各証拠に前出乙第一七号証及び控訴人の原審における本人尋問の結果をも併せ考慮すると、昭和六〇年二月二二日における藤吉係官の右出訴期間に関する応答は、「いつでも裁判できるのか」と念を押す控訴人に対して、終始曖昧な受け答えにおわっていたこと、したがって、控訴人は、当時、同係官が出訴期間の点に関して十分な知識を持ち合わせていないことを察知し得たはずであること、控訴人は、本件裁決の対象となる審査請求を弁護士に委任しており、右当時、出訴期間の点について正確な知識を得ようと思えば、同弁護士に問い合わせるなどしてその目的を達成し得たはずであること等の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

してみると、昭和六〇年二月二二日当時、藤吉係官が控訴人に対してその主張するような誤った教示を断定的に行い、控訴人がこれを信じて別件租税訴訟の出訴期間を徒過するに至ったとは認められないというほかはない。

三  以上の次第により、控訴人の本訴請求を失当として棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 友納治夫 裁判官 渕上勤 裁判官 榎下義康)

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